2025年の今、AIは音楽を「つくる」存在となりました。
ブルースの12小節定型、ヒップホップのライム構造、そしてAIによる自動生成。その間に共通するのは、「繰り返し」と「構造」という創作の根幹です。
今回は、アメリカ音楽のルーツであるブルースから現代ヒップホップ、そしてAI生成音楽までを結ぶ“構造的な視点”で、創作とは何かを考えてみたいと思います。
■ ブルース:12小節定型の“感情の型”
ブルース音楽は、I-IV-Vコードを軸とする12小節のコード進行と、AAB形式の歌詞構造に基づいています。この定型はただの枠組みではなく、悲しみや喜びといった感情を整理し、表現する“感情のフレーム”として機能してきました。
定型があるからこそ、ブルースは自由に歌える。
それは即興性と形式の間に生まれる緊張感であり、アフリカ系アメリカ人の歴史的背景とも深く結びついた、表現と記憶の形式でした。
■ ヒップホップ:ビートとライムの詩構造
1970年代以降、ニューヨークのブロンクスで生まれたヒップホップは、音楽というより「語りの文化」から始まりました。
MC(ラッパー)が語りかける言葉には、ブルースと同じように感情と物語が込められ、しかもそれは「ループビート」に乗せて反復されました。
この構造はまさに、ブルースが「コード進行の型」を持っていたのと同様に、ヒップホップは「リズムとライムの型」に支えられてきたと言えるでしょう。
■ AI生成音楽:繰り返しと構造の“抽出と再構成”
そして現代。AIは膨大な音楽データを学習し、コードやメロディ、ビートパターン、ライム構造を理解・再生成します。
ここで注目すべきは、AIが学習するのは“繰り返されてきた構造”であるという点です。
AIは、12小節進行も、ヒップホップの4小節ループも、“パターンとして”扱います。
つまりAIの創作とは、感情そのものを再現するのではなく、“感情が宿りうる構造”を再配置する作業であるとも言えるのです。
■ 構造の中に宿る“魂”──音楽的共通点
ブルースもヒップホップも、そしてAI音楽も、すべて「繰り返し」から始まります。
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ブルースは「定型の中で感情を揺らす」。
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ヒップホップは「反復の中に物語を挟む」。
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AIは「構造を抽出し、新しい組み合わせを作る」。
異なるようでいて、すべてが「構造」と「繰り返し」の中に、創造性を見出しているのです。
私たちが運営する神宮前レコーディングスタジオでも、こうした構造的な視点から音楽を見つめ直す機会が増えてきました。
AIがビートを生成する時代に、人間の手作業でループを修正することの意味。そこには“感情”という名の微細な揺らぎがあり、それを見逃さない耳と技術が、今も必要とされています。
ブルースが泣き、ラッパーが叫び、AIが模倣する。その全てを繋ぐ「構造」と「感情の揺れ」を、スタジオでは丁寧に扱いたいと感じています。
あなたにとって「音楽の魂」とは、どこに宿るものですか?
コード進行の中に?
言葉のリズムに?
あるいは、AIが作ったループの中にも“魂の欠片”は存在するのでしょうか。